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観光英語入門



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グランドツアーを思わせる古典の書

この書が発行されたのは1991年。 バブル景気の最中、海外旅行に行くことはもはや贅沢ではなくなった時代である。当時の運輸省のテンミリオン計画も最中のころである。

リピーターという言葉が示すとおり、休みをとって海外へ遊びにでかけることは珍しくなくはなったものの、当時の日本人の旅行はいまだ団体スタイルが主流で、観光コンテンツを満た、食べる・買う・見るにおいてはまだ一人歩きができるほどではなかった。
当然のことながら、多くの人が旅には現地の言葉や英語が必要であると気がつき始めたのである。

80年代後半からは旅のマニュアル本や観光会話集の電子媒体などがさかんに出版されている。この手の本は空港から始まって、ホテルのチェックインやら、食事のオーダーの仕方、チップについて等場面別に語彙と表現を紹介していくという内容が、現在も当時も主流で、といってもそれしか方法はないだろうと思うのであるが。

この本はまったく使える英語表現には目もくれず、香り高く、アガサクリスティやヘミングウエィ、テネシーウイリアムス等の英米文学の一節を盛り込みながら、世界を観光して行く(しかしながら、アジアは極端に除かれている。)という構成になっている。

各文芸作品の舞台が旅先である。会話は表現集の為にシーンを設定して作り出されたものではなく、文芸作品の中の登場人物が話す言葉を引用しているところはフィクションながら、かなり口語表現を含み臨場感もある。しかしそれは作家の英語であり、登場人物の社会的地位もさまざまなので、その人物が話す表現は必ずしも、いちげんさんに近いトラベラーにとって適切なものかどうかは状況的に怪しいが。

アーサー・ヘーリー「空港」のなかからの引用の例文では、“I would very much like to get on that next flight”
“I’m sorry, sir, the flight is fully booked. There’s also a long standby…”
満席で便にのれない乗客と航空会社とのやりとりである。
基本表現 ….would like「?したいのですが。」を含むが、wouldと likeの間にvery muchが挿入されていたり、that next flightであったり、とにかくコンテキスチュアルなのである。
この一節はその後、客がマイレージの上顧客であることが判明するので一席なんとか、確保できる方向へ展開していく。このあたりの状況の変化も実際にはありがちなので、上級旅行者にとってはリアル感じである。しかし初心者にとってはあまり参考になるとは思えない。とにかく良くも悪くもまったく、旅の素人向きではないのである。

現在、再び手にしてもそこにはネット社会の手軽さも微塵もないし、世界遺産のようなイマ的なコンテンツも全く伺えるはずもないので、時代遅れの書物となってしまうのであろうが、古典にはやはり不変的な魅力があるのである。

これにはグランドツアーを思わせる旅への憧れや脱日常のワクワクする感じが散りばめらているからである。ネット社会になってから、人はいつでもどこでも簡単に情報にアクセスでき、疑似体験すら可能になった。しかし旅心を誘われ、憧れ、実際に訪れてみたいという、原始的な人の心のつくりは太古からも、これからも変わることはない。

この本が出版されてから16年。日本人の旅行スタイルは時を経て、マーケットはグループから個人へ、周遊型から滞在型へ、観光から目的のある旅へと多様化して、成熟化しつつあるが、このような時代だからこそ、画一的ではなく、旅の本質へと近づける英語教本があったら良いのではないだろうか。

時を経てなお、代わり映えのしない会話集が種類を増やしている現状は相変わらずである。またその間にこれほど個性ある観光英語本もでてきてはいない。
出版時同様、古典的なつくりで異彩を放つこの本は、まだジャンルが確定していない観光英語というものを見る時にいまだ欠かせぬ一冊である。





トラベルジャーナル







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